ROPE' PICNIC

どんなときも。 Song by 松岡茉優 晴れの時、曇りの時、どんな時も、自分らしく、
Life is picnic

晴れの時、曇りの時、

どんな時も、自分らしく、

life is a picnic

疲れて眠る彼の投げ出した手の下に、
そっとスケッチブックを差し入れて、
輪郭を紫色のペンでなぞっていく。
目を覚まさないで、と願いながら。
彼の寝息と時を刻む時計の音。
そろそろとスケッチブックを引き抜いて、
輪郭線の上に自分の手を重ねてみる。
私よりも大きな手。
私の好きな大きな手

その手を静かに離した時も

カーテンの隙間から差し込む光が、
朝が来たことを私に告げる。
ゆっくり瞬きをした後、最初に私の目に入ったもの。
それは、本棚に飾っていた小さな折り紙の犬。
彼と私、ふたりで作った二匹の犬。
私は体を起こすと、本棚に近づき、
その一匹をつまみ上げ、ゴミ箱に捨てる。
残された一匹は何も知らずに佇んでいる。
おはよう、今日からひとりの私。

踏み出すことをためらう時も

こんな日にも、仕事に向かう私は強い。
泣かずにいるのもえらいと思う。
横断歩道で信号が変わるのを待つ。
赤信号の下に表示されたバーグラフが、一本、一本減っていく。
その様子を眺めながら考える。
思い出もあんな風に少しずつ消えていくのかな。
その一方で、私は間違えたのかも、とも思う。
もしも、引き返すことができるなら。
引き返して、別な言葉が選べるのなら。
じわじわと広がっていく思いを、あわてて押しとどめる。
そんなこと、できっこないし、しないほうがいい。
もう決めたこと。もう終わったこと。
信号が青に変わる。
ぼんやり立ち尽くしていた私に、
歩き出した後ろのひとがぶつかる。
とっさに言葉が口からこぼれる。
「ごめんなさい」
みんな真っ直ぐ歩いていく。迷いなく、真っ直ぐ、前を向いて。
私を次々と追い越して。私も向こうに渡らなければ。
ひとの流れに交じる。
私は、横断歩道を渡っていく。
信号が青に変わる。
ぼんやり立ち尽くしていた私に、
歩き出した後ろのひとがぶつかる。
とっさに言葉が口からこぼれる。
「ごめんなさい」
みんな真っ直ぐ歩いていく。迷いなく、真っ直ぐ、前を向いて。
私を次々と追い越して。私も向こうに渡らなければ。
ひとの流れに交じる。
私は、横断歩道を渡っていく。

笑顔を忘れてしまった時も

どんなに悲しい時にも、やることがある。
それは、とてもいいことだ。
ディスプレイを見つめ、キーボードを叩く。
終日、デスクワーク。神様に今日の予定を感謝する。
笑わなくてもいい。喋らなくてもいい。
ただ与えられた仕事をこなすだけ。
今日の私は心のないロボット。
何も感じない。何も思い出さない。
終業時刻まであと四時間。そう自分に言い聞かせる。
でも、気を抜くと、指が止まる。
下を向いちゃだめ。背筋を伸ばして。
そうしていれば、きっと平気に見えるはず。
だけど。私の中で、もうひとりの自分が喋りだす。
私はロボットじゃないよ?普通の人間だよ?
ディスプレイの文字を追っていたはずなのに、
いつの間にか、視線を落としている。
キーボードの上に載った指。怯えたように固まっている。
私、ネイルを塗るのを忘れている。
でも、気を抜くと、指が止まる。
下を向いちゃだめ。背筋を伸ばして。
そうしていれば、きっと平気に見えるはず。
だけど――。私の中で、もうひとりの自分が喋りだす。
私はロボットじゃないよ?普通の人間だよ?
ディスプレイの文字を追っていたはずなのに、
いつの間にか、視線を落としている。
キーボードの上に載った指。怯えたように固まっている。
私、ネイルを塗るのを忘れている。

冬の風に吹かれる時も

定時にあがれたのに、オフィスを出ると、
既に陽は落ち、辺りは暗い。
冬の寒さ。コートの襟を掻き合わせる。
街灯の下で、バッグから手袋を取り出し、手にはめる。
五本の指。ぎゅっと握って、ぱっと開く。
もう一度、ぎゅっと握って、ぱっと開く。
手袋をしても小さな私の手。
コートのポケットに入れて、歩き出す。
用事なんて何もないけれど、駅とは反対の方向へ。
幸い、今日の靴は、それほどヒールが高くない。
気の済むまで歩いたら、どこかで暖かいものでも飲もう。

夜の長さを感じる時も

真夜中、灯りを落とした部屋で、
シナモンティーを飲みながら、古いフランス映画を観る。
私が生まれるよりずっと前の、モノクロームのパリの街。
未来からやってきた男が、ひとりの女と恋に落ちる、
ロマンティックなSF映画。
公園、博物館、彼女の部屋。
ふたりは逢瀬を重ねていく。
でも、最後にピストルで撃たれ、男は死んだ。
女は二度と男に会えない。
私は滅多なことで泣いたりしない。
なのに、今日は、涙がこぼれた。
右の目から一筋、涙が頬を伝っていった。

夕暮れの空を見上げる時も

口にくわえたストローに息を吹き込むと、
虹色の膜は丸く、次々と膨らみ、風に吹かれて流れていく。
広がる空は、はちみつ色。
ブルーグレイの雲がまだらに浮かぶ。
遠くに高層ビルが林立しているのが見える。
その奥には、首を伸ばしたキリンのようなクレーンも。
屋上から眺めるこの街は綺麗。
ありふれた景色かもしれないけれど、
それでも私は、この街を美しいと思う。
どこか懐かしいメロディーを小さな声で歌ってみる。
気にとめたことなどなかった言葉が、
ひとつひとつ、私の心にしみていく。
夕暮れに白い月。その隣には小さな星。
ゆらゆらと漂うシャボン玉の間を縫いながら、
私の歌は大好きな街に溶けていく。
どこか懐かしいメロディーを小さな声で歌ってみる。
気にとめたことなどなかった言葉が、
ひとつひとつ、私の心にしみていく。
夕暮れに白い月。その隣には小さな星。
ゆらゆらと漂うシャボン玉の間を縫いながら、
私の歌は大好きな街に溶けていく。

優しい気持ちに触れた時も

白いシャトルが弧を描き、ふたりの間を往き来するたびに、
彼女も私も声をあげて笑った。
遊び疲れた私たちは、並んでベンチに腰を下ろす。
バドミントンなんて、子供の頃にやったきり。
「誘ってくれてありがとう」
彼女からの電話がなかったら、今日もひとりで過ごしたと思う。
澄み渡る空。緑の芝生。公園に響く鳥のさえずり。
降り注ぐ暖かな日差しに、目を細めた時だった。
「そういえば」と言いながら、
彼女が、傍らに置いてあった紙袋を差し出した。
紙袋の持ち手にはリボンが結ばれている。
「クッキー、作ってみたの。後で食べて」
驚いて彼女の顔を見る。照れくさそうに笑っている。
紙袋を受け取って、手を入れる。
取り出した包みに、私は思わず声をもらした。
彼女が作ってくれたのは、ただのクッキーじゃない。
優しい色で飾られたアイシングクッキー。
もみの木、星、雪の結晶・・・それに、サンタクロースまで!
「ありがとう・・・」
私は滅多なことで泣いたりしない。
だけど、なんだか泣きたくなった。
でも、嬉しいのに泣くなんて、そんなの、おかしい。
だから、泣かずに代わりに笑った。
「本当に、ありがとう」
今日、三度目のありがとう。
「クッキー、作ってみたの。後で食べて」
驚いて彼女の顔を見る。照れくさそうに笑っている。
紙袋を受け取って、手を入れる。
取り出した包みに、私は思わず声をもらした。
彼女が作ってくれたのは、ただのクッキーじゃない。
優しい色で飾られたアイシングクッキー。
もみの木、星、雪の結晶・・・それに、サンタクロースまで!
「ありがとう・・・」
私は滅多なことで泣いたりしない。
だけど、なんだか泣きたくなった。
でも、嬉しいのに泣くなんて、そんなの、おかしい。
だから、泣かずに代わりに笑った。
「本当に、ありがとう」
今日、三度目のありがとう。

新しい私を始める時も

便箋、万年筆、封筒に切手。
カフェの窓際の席に座り、手紙を書く。
ブルーのインク。字を間違えないように丁寧に。
仕事のこと。部屋で観た映画のこと。
シャボン玉とバドミントン。
それから、子犬を飼おうと思っていること。
ペンが止まる。私の身に起こった一番大きな変化。
それについて書くべきか迷う。
顔を上げ、窓の向こう、行き交う人を眺める。
カップル、親子連れ、楽しそうな高校生たち。
ふと気づく。ひとりのひとも大勢いる。
それぞれがそれぞれの行く先に向かって歩いている。
あのことを書くのはやめよう。
あえて知らせることもない。
その代わり、未来のことを。
私は再び、ペンを走らせる。
春になったら、旅に出たいと思っている、と。
 
ふと気づく。ひとりのひとも大勢いる。
それぞれがそれぞれの行く先に向かって歩いている。
あのことを書くのはやめよう。
あえて知らせることもない。
その代わり、未来のことを。
私は再び、ペンを走らせる。
春になったら、旅に出たいと思っている、と。
いつもと違う花を買う。
ネイルを赤く塗ってみる。
手紙はオレンジ色のポストに入れた。
朝の大通り。信号が青に変わる。
晴れの時、曇りの時、雨の降る時もあるけれど、大丈夫。
私は魔法の呪文を知っている。
〝どんな時も、自分らしく
そう心の中でつぶやいて、私は駆ける。
脱いだコートを腕にかけ、横断歩道を駆けていく。  
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